東京地方裁判所 昭和39年(ワ)1718号 判決
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〔判決理由〕(一) 昌弘の得べかりし利益の喪失による損害
(1) 純収益
(イ) 昌弘が昭和二〇年六月一二日生れの男子で事故当時満一七才余であり、健康に成育していたこと、昭和三九年三月に高等学校卒業後同年四月以降労働者として稼働する予定であつたことは当事者間に争いがなく、厚生大臣官房統計調査部発表の第一〇回生命表によれば満一七才の男子の平均余命は五一・二〇年であるから昌弘は本件事故がなければ、右程度の期間生存し、その間右稼働開始の時(満一八才余)より満六〇才に達するまで少くとも四一年間は労働して収益を挙げることができるものと推認することができる。
(ロ) 成立に争いのない甲第一三号証(労務行政研究所編「昭和三九年版モデル賃金初任給昇給平均賃金」)によれば、昭和三八年度における、東京都に事業所を有する中小企業(資本金三、〇〇〇万円未満、従業員一五人ないし二九九人)の高校卒業者の平均初任給(月額)は金一三、一九〇円であること、高卒者のモデル賃金(高卒者が中小企業の現行の賃金規程及び昇給事情のもとで、将来普通の能力と勤務成績で標準的昇進を続けた場合の賃金)によると、男子の年間昇給額は概ね一八才から二〇才までは金一、二〇〇円、二〇才から二二才までは金一、三〇〇円、三二才<編注―二三才の誤記か>から二五才までは金一、四〇〇円であること、大阪府における賃金事情も東京都におけるそれと殆んど変らないところ、大阪府の中小企業では平均して一ケ月の賃金を相当上廻る額が昭和三七年末と同三八年夏期に賞与として支給されていることが認められる。以上の各認定事実によれば、昭和三八年度における東京都に事業所を有する中小企業に勤務する高校卒業の男子労働者で、普通の能力と勤務成績を有する満二五才(勤務年限七年)の者の平均年収額は、定期給与、臨時給与を合せて金三一三、四六〇円(月額二二、三九〇円の一四ケ月分)を下るものではないと推認できる。
次に成立に争いのない甲第一四号証(総理府統計局編「日本統計月報」昭和三九年六月号)によれば、昭和三八年度における東京都の勤労者世帯の平均消費支出額は月額金五二、三七二円であり、同年度の同都における勤労者世帯の平均構成員数は四・一四人であることが認められる。右認定事実によれば、一人当りの平均支出額は月額にして金一二、六五〇円(円未満切捨)となり、年額にして金一五一、八〇〇円となること計数上明らかである。
ところで、我国では一般に常傭の労働者の賃金は年功序列式に上昇することは公知の事実であるけれども賃金の上昇とともに生活費も上昇し、殊に世帯主の生活費が高額化する一面家族と同居する場合の生活費は平均支出額を相当下廻ることもまた公知の事実でありこれと原告石川直義本人尋問の結果によつて認められる昌弘の家庭状況および上記認定判示の各事実を総合すれば、上記高校卒男子労働者の満二五才時の平均年収額三一三、四六〇円から上記一人当りの年生活費一五一、八〇〇円を差引いた金一六一、六六〇円(年間純収益額)を基礎として昌弘につき前記稼働可能期間内の逸失利益額を算出する結果は現在の時点においては高度の蓋然性を有するものというべきである。(東京地方裁判所昭和三八年(ワ)第四、八五九号・同四〇年五月一〇日言渡判決参照<編注―本誌一二六号一三六頁に登載>)。
原告は、昌弘の得べかりし利益の喪失による損害として、収入の上昇と生活費の上昇とを考慮に入れ、これに基き推計した数値を主張するけれども、上記判示のごとき、昌弘の満二五才に至るまでの賃金の上昇についての推定は合理性を有するにしても、その後の推定は現今の労働事情、賃金事情などに照すときはいずれも単なる推測の域を脱しないものというほかなくこれを高度蓋然性のある推計とは認め得ないから採用するわけにはいかない。
(2) 一時払額
そこで昌弘につき上記純収益額による得べかりし利益による損害を、損害発生時の一時払額に換算するため、ホフマン式計算方法に従い、右四一年間の年毎の純利益額のそれぞれについて民法所定の年五分の割合による中間利益を控除し、これを合算すれば金三、四四九、六六二円(円未満切捨)となる。
なお被告らは昌弘の得べかりし利益より所得税を控除すべきであると主張するが、得べかりし利益の喪失による損害の算定に際しては所得税を控除するのは相当でないと考えるので、被告らの主張は採用しない。(鈴木潔 岩井康倶 梶本俊明)